to go to see one

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いつか会いに行く


・神切前の子🐪と20代🐊

表通りへ  子🐊と🐪



夕方六時、走って裏路地に入り込み右に一回左に一回、真っ直ぐ坂を上がりまた右に曲がると目の前に見上げる様な大男が現れた。

なんだかやたらと目つきが悪くて顔に傷がある。葉巻を吸ってて片手は手の代わりにフックの様な鉤爪が光っていた。

一瞬戸惑うように視線を泳がせたがこちらを見ると目を見開く。弟と同じ鰐の瞳だ。

横を通り過ぎようとして……ガクンとつんのめる。大きな指輪だらけな手が腕をガッチリ掴んで片手で持ち上げられてしまった。ナイフを投げると肺に突き刺さる筈のそれは体をそのまま通過してサラサラと音がする。

うーん能力者だ殺すのが難しい隙はなさそう。

顔を鉤爪で持ち上げられて瞳を覗かれる。

「目は手の代わりにはならないと思うよ。私の手もキミには小さすぎるけど」

舌打ちされるが手は放してくれないああ駄目だなこれは懐の鋏にも気づいている。

「名前は?」

「港近くにある“マアッサラーマ”て店の幽霊船の柄杓っていうデザート美味しかったよ」

「さっきまでおれがいた街は海賊に襲われて拠点にする為に住人は皆とっくに殺されてる。店もなにもねェよ」

「何言ってるの」

「どうも妙な現象に巻き込まれてやがる…………キャメルだな?」

その言葉に刃のついた仕込み指輪を掴まれた自分の右腕に突き立てた。

血が噴き出して流石に男に隙ができる。腕を蹴って振り落とされる前に着地すると走り出した。

追いかけてきていた賞金首の仲間か昔の船にいた誰かか、正体などどうでも良いが名前を知られているということはクロが危険ということだ早く宿に戻って街を出なければならない。この先の──

突然足元の地面がヒビ割れていく

「はなれるな」

「ぐっ…ぅ」

次の瞬間には前に立ちふさがり踏みつけられ押さえ込まれてしまった。

「お前の飼主はどこだ。殺させろ」

「かい…?…そんな奴いない」

「何だと?」

夕日を背負う男の顔が見えないのに夜の獣みたいに光った気がした。

「海賊か?」

「違う」

「弟がいるだろう」

「いない」

睨めつける様に見下ろしていたと思ったらズボンのポケットに鉤爪が入る。

「一人なら乗船券は2枚も要らねェと思うが……暴れるな。別に敵じゃない」

「クロに手を出すな」

「出すかよそれより出口だ。お前しか多分見つけられないこんな空間に閉じ込められるのはごめんだ」

不自然な迷うような手の動きに警戒しているとため息をつかれてスカーフを外し傷口に巻かれる。ジワジワと赤が広がるけれどそれ以上血が流れる事はなかった。

「お前、時々迷子になっても平気な顔で戻ってきてたな」

「迷ってないよ近道探して通ってるだけ」

「そうだ。そんな事ほざいていつも……なんでこんな奴におれは」

「キミ、誰なの」

「知るかよ早く道を教えろ。殺されたくなきゃな」

そんな事を言われても殺意は不思議と感じられなかった。イライラはしてるけど私じゃなくて別の人に対してみたいだ。

「わかった」

弟と同じ様に手をつなごうとしたが鉤爪だったので反対側の手を掴んで走り出す。

ヒビ割れてた地面から砂が溢れて埋まっていくのを横目に右に曲がり左に曲がりブリキのゴミ箱を蹴飛ばしてもう一度左に曲がって狭い階段を駆け上る。

「ここ」

「走るとか何とか言え!」

息一つ乱れていないのに怒鳴られた。理不尽。

「時間ズレちゃうから」

「そうかよ」

「振り返らないでね。これ汚いから返す」

「汚いもの返すんじゃねェよ」

「……お兄さんちょっとクロに似てる。クロのが可愛いしカッコいいけど」

「こんな自分勝手な奴の弟なんて同情するぜ」

迷わず路地を進む男に声をかけたのは気まぐれだ。

「ウソついてるかもよ。私」

「てめェはウソ下手なんだよすぐ顔に出る」

パチ、と瞬きをする。思わぬカウンターというものを食らった気分だった。

「初めて言われた。本当? 私ウソ下手?」

質問には答えず、彼は背中を向けたままヒラリと手を振った。




宿に戻るとクロがおかえり、と言うからただいま、と返事する。

「その怪我」

「あ、心配しないで。もう止まったから」

「嘘つくな。救急箱借りてくる」

「……私、ウソ下手?」

「なんだよ。やっと気づいたのか?」

何で誰も言わなかったんだろ。とそんなことを言いながら出ていくクロを見送りながら私は真剣にポーカーフェイスというものを習得する決意をした。

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